第222回:探偵ができる依頼とできない依頼
探偵に依頼をしようとしている人の中には、一定数、依頼をすれば何でもしてくれると思っている方もいます。それは、やはり物語に出てくる探偵の存在が大きいのでしょう。安い金額ではそれほど大したことはしてくれませんが、高いお金を持って行けば、どんなに危険なことでも引き受けてくれそう、という印象を持たれている方が一定数います。
ですが実際はそんなことはありません。そもそも、探偵事務所を正式に構えるためには、警察公安に届出を出さなくてはいけません。つまり、探偵事務所は公安の管轄内にある会社ということです。定期的なチェックは入りますし、ちょっとでも不正があれば処分を受けます。違反を犯した探偵事務所は、その事務所名とどういった違反を犯したのかということも、ネット上にさらされるため、非合法な依頼は受けていません。
たまに公安に探偵の届出を出さずに、探偵事務所の看板を掲げている違法の探偵事務所もあります。そういったところでは完全にないとは言い切れませんが、違法な事務所は、その事務所自体が詐欺を行っている可能性も高いため、契約金だけを奪われてしまう危険もあります。
また、犯罪のような依頼をした場合は、それをネタに反対に強請られてしまう可能性もあるので、十分に注意が必要です。さらに勘違いをしている方もいるのですが、仮に違法になることを誰かにお金を出して行ってもらった場合、実行犯だけが捕まるわけではありません。依頼をした側も犯罪者として罰を受けることになるので、お金を積めば何でもできるということはない、ということを覚えておきましょう。
ただ、依頼人が「犯罪」だと認識していない場合もあります。そういった依頼人は、公式の探偵事務所にも相談をしてくることがあります。ですが、探偵は犯罪を行いませんし、依頼人を犯罪者にもしたくはないので、どうしてその依頼を受けることができないのか、ということを丁寧に説明させていただいています。それも探偵の役割の一つだと思っているからです。
知らないことを知りたいというのは、人間であれば誰もが持っている感情です。ですが、どこまでのことをすれば犯罪で、どこまでのことであれば犯罪ではないかというのは、一般の人では判断がつかないかもしれません。
例えば、夫が浮気をしているかもしれないので調べてほしいと妻が相談に来れば、それは犯罪ではありません。ですが、夫が浮気をしているので、愛人と別れさせてほしいと妻が相談に来れば犯罪です。別れさせ屋というのは、一時期テレビドラマをきっかけに認知度が上がりましたが、あれは軽犯罪から重犯罪まで様々なところで引っかかりのあるものです。そのため、探偵は別れさせ工作を行っていません。
また別れさせたいというのではなく、ただ知りたいというだけでも犯罪になることもあります。例えば、隣の家の人がいつも煩いので、どこ出身なのかを知りたいから調べてほしいという相談は、犯罪になる可能性があります。プライバシーの侵害にあたるからです。ですが、隣の家の人がいつも煩いので、隣の人が公害になるような行為をしているところの証拠が欲しいという依頼であれば、犯罪ではありません。その証拠を使って、隣の家の人に近所迷惑になる行為をやめてもらおうというだけですし、依頼人の行為も問題には問われません。
ただこの「出身地を調べてほしい」という言葉は、一般の人からの依頼よりも、企業側からの依頼でよく聞く話です。採用面接をした人が、履歴書に書かれていることが本当かどうかを調べたいからという理由なのですが、これもお断りをしています。
出身地を知られることが、どうしてプライバシーの侵害になるのかというと、出身地をどうしても隠したいと思っている人も、世の中に入るからです。これは差別の問題に関わってきます。差別をするために、出身地を知りたいと言っているわけではないと、依頼人側が言ったとしても、出身地を知るということが差別につながる可能性があるのであれば、引き受けることはできません。
犯罪の種類としては軽い方かもしれませんが、問題になることは確かです。だから探偵が、相談を受けた際に、これは問題になるのか、問題にならないのかを判断した上で、依頼を受けるか受けないかを決めています。
また、探偵が犯罪に繋がることだと気付かないように依頼をしようとしてくる方もいます。よくあるパターンとしては、「妻が行方不明になってしまった。記憶喪失になって戻って来れない可能性もあるので、探してほしい」というようなものです。最近では、「同居しているお爺ちゃんが家に帰ってこない。痴ほうがあるので、自力では帰って来れないのかもしれないので探してほしい」などもあります。
一見、行方不明者を探すだけの、普通の依頼に聞こえるかもしれません。ですが、これには裏がある場合があります。行方不明になったのではなく、家出をした場合です。そして家出をしたのは、家族にDVを受けているから。夫が妻を探す場合は、妻はシェルターに逃げ込んでいる可能性もあります。しかしDVをしている側は、対外的には紳士的な態度を取るため、相手を心配して探しているのかもしれないと思わせてきます。
それを最初の段階で見抜くことができれば、探偵は依頼を受けません。ですが、本当に行方不明なのか逃げているだけなのかの判断がつかない場合は、依頼は受けますが、探し人を見つけた時に必ず依頼人よりも先に話をさせてもらっています。そこで事情把握をした上で、依頼人と探し人を合わせるのかどうかの判断をしています。
また、恋人を探してほしいという依頼をしてくるケースもあります。この場合は、DVではなく、依頼人がストーカーである可能性もあるため、恋人探しの場合は初めから依頼を受けていない探偵事務所も多くあります。
このように、探偵は犯罪に加担しません。その探偵事務所の経営がたとえ行き詰っていてもそうです。探偵には探偵の正義があり、人を助けるために探偵になっています。テレビドラマや小説に出てくる探偵は、すぐに悪事に加担していますが、大半はそうではないということを覚えておいてくださいね。
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