第48回:《浮気》夫の浮気を信じて疑わない妻A子さん
夫の浮気を信じて疑わない妻A子さん
今回は浮気調査を依頼されたA子さんの話をしたいと思います。
浮気調査を依頼されたA子さんの話をしたいと思います。
A子さんは26歳の時に結婚をして10年になる奥様です。子どもが二人いるのですが、どちらも小学生に上がったのをきっかけに、去年から近所のスーパーでパートを始めました。
これまでは生活のほとんどを家で過ごしていたので、外で働くのがとても楽しいそうです。
そんなA子さんが、私の事務所を訪れたのは夏に入る少し前の時期でした。
「今日はどうされましたか?」
お茶を出して、そう聞くと、A子さんは唐突に形相を変えて泣き出しました。
そして、こう言い切ったのです。
「夫が若い女と浮気しているんです」
A子さんは、その後家族のことを事細かに話してくださいました。
約1時間が過ぎ、浮気調査をする契約を結ぶとA子さんは頭を下げて事務所を出ていったのです。
この時少し、A子さんに対して違和感を覚えましたが、初めて探偵事務所に来られる方は、緊張されている方が多いので、普段とは違う行動を取ってしまう方もいます。
だからA子さんの行動が、少しぐらい不自然であっても、とりあえずは気にしないことにしました。
A子さんからの依頼は、夫の浮気調査です。旦那さんが遅く帰ってくるのは、いつも木曜日なのでその日が怪しいということ。
ですが初日の尾行では、旦那さんの浮気は確認できませんでした。どうやら旦那さんの会社では水曜日がノー残業dayとなっているため、次の日に業務が押してしまい、帰りが遅くなっているようです。
一回目の浮気調査の報告を、翌日A子さんに電話で伝えると……。
「そんなはずないわ! たまたま昨日が仕事で忙しかっただけよ。来週こそは、若い女の所に行くはずよ」
と、激昂されてしまいました。
A子さんは、やはり夫の浮気を信じているようです。私はふと気になり、木曜日の帰りが遅いということ以外にも、何か浮気の兆候のようなものがあったかどうかを聞きました。
A子さんが事務所に来られた時は、ほぼ一方的に家庭の話をされただけで時間が過ぎてしまったので、その辺りも聞き取りができなかったためです。
「そんなの……いえ、それを調べるのが、あなたたちの仕事でしょ! 次はちゃんとやってよね」
そう言って、電話を切られてしまいました。
確かに浮気の証拠を探すのが私たちの仕事ですが、A子さんの言葉に、やはり違和感を覚えずにはいられません。
その翌週の木曜日、再びA子さんの夫の調査をしました。ですが、この日も変わらず会社にいるだけの様子。ただ社内不倫をしている可能性もあるので、今回は中に入っての調査も行いました。
ですが、たくさんの書類に埋もれている旦那さんの姿しかなく、周りの女性の気配が全くありません。可能性として、男性との不倫をしていることもあるので、他の社員も見てみましたが、過剰にスキンシップが多いとか、アイコンタクトを取っているとかもありませんでした。
やはりA子さんの夫は、ただ残業をして遅くなっているだけのように見えます。
この日も、旦那さんが家に帰宅するまでの間を調査し、翌日A子さんに電話を掛けました。
「うそよ……そんなこと、あるわけないわ!」
A子さんの口調を聞いていると、やはり何か確信するようなものがあるように聞こえます。ですが、私たちの調査では、旦那さんの浮気をしている証拠は見つけられませんでした。
「わかったわ。今度の土日、実家に帰ると夫に言っているの。だから、その間、調査をしてくれない? これが最後だから」
私たち探偵も、依頼人に対して無駄なお金を使わせたくないという気持ちもありますが、「これが最後」と言われれば行うしかありません。
土曜日になり、A子さんの自宅前で張り込んでいると、A子さんが出てきました。彼女は旅行鞄を持って、一人で実家に帰るようです。
そのあとに、大人たちが訪ねてきて子どもたちとどこかへ行ってしまいました。
これで、この家には、A子さんの夫しかいません。彼女の言うとおり、もし不倫をしているなら、今がチャンスです。
ですが、日曜日に子どもたちとA子さんが帰ってくるまでの間、旦那さんはスーパーに買い物に行っただけで、後はずっと家の中にいました。
誰かが家に尋ねてくることもありません。
たまたま、不倫相手の予定が合わなかっただけ、という可能性もないわけではありませんが、三回調査をして、それらしい行動を一切取っていないので、白の可能性が高いと言えます。
それよりも、気になったのはA子さんの行動でした。
今回は、最後の依頼ということだったので、報告は電話ではなく、実際に事務所に来てもらう事にしました。
旦那さんが若い女性どころか、誰かと合った形跡もないという報告書を渡すと、A子さんはショックを受けたのか真っ青な表情です。
「これ、本当なの? どうして夫が浮気をしていないのよ!」
私はこの言葉に確信を持ち、A子さんに告げました。
「……浮気をしているのは、A子さんの方ですよね? 土曜日に宿泊をしに行ったのは、実家ではないのではないですか?」
「調べたの?」
「いえ、依頼を受けていませんので調べてはいません。ですが、これまでの言動を見ていてそう思いました」
「そう……」
A子さんは、おもむろに煙草を取り出して一服しました。そして、自分が浮気をし始めたきっかけを話し出したのです。
久しぶりの職場にテンションが上がっていたA子さん。そこに、今年の春から新卒の若い男性社員が入ってきて意気投合。不倫に抵抗があったA子さんでしたが、「この前、A子さんの旦那さんが若いOLとホテルに入っていくのを見たよ」とささやかれ、自分も不倫をする決意をしたそうです。
今では、若い男性社員に没頭していて、彼とおおやけに付き合いたいから、夫の浮気の証拠を持って離婚しようと考え、探偵社を訪れたのです。
まんまと若い男性社員に騙されて不倫に走ってしまったA子さんですが、マンネリ気味の夫とは違う若い男性社員に惹かれていたことも事実。
「いろいろお世話になったわね」
そう言って、A子さんは事務所を立ち去りました。その後、A子さんがどうしたのかは分かりません。
探偵事務所を訪れる方は、本当にいろんなタイプの人がいます。家族のことなので、何が正しくて何が間違いということは、他人の目からは分からないこともあります。
それでもA子さんが、今回の調査結果を聞いてショックを受けたということは、自分の行いに間違いがあったと思っているからでしょう。
ここではまた、依頼人の実例を書かせていただきますね。
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