2019-02-14
第49回:《探偵》意外と知らない。探偵に依頼できることとできないこと
「探偵は裏の家業だから、依頼すれば何でもしてくれるんでしょ」
なんて本気で思っている人が未だにいます。ですが、今や探偵は届け出が必要なまっとうな職業。裏家業ではありません。
ごくたまにいるのですが、お金を積めば何でもしてくれると思っている依頼人と出会うことがあります。そんな時には、丁重にお断りをしています。中にはお金に困っている探偵が引き受けてしまうこともありますが、残念ながらそういう探偵は長続きしないか、そのまま本当に裏家業へと転身してしまうというのが落ちです。
こういったことは探偵に限らず、何の職業をしていても同じだと思います。初めはとても些細なこと……例えば、会社のお金で出張に行ったけど、実際に行ったルートと違う方法で行ったため1万円も安くなったけど、そのまま自分のものにした。とか、備品を買ったけど領収書をもらうのを忘れ、自分で領収書を書いてみたら通ってしまったので、自分で好きな数字を書いてお金を手に入れた。とか、経理担当になったので、会社に現金で置いているお金を少しだけ自分の懐に入れてみた、など。
もうわかると思いますが、完全な横領ですね。初めは大したことをしていないと思っているので、少しだけ良心の呵責があるだけですむのですが、慢性化してくると当たり前になり、もうちょっと何かしてもいいんじゃないかと思うようになる。そうやって人は、悪事に手を染めていく、というわけです。
人というのは「これぐらいなら……」と思って、自分を甘やかせてしまう生き物なので気をつけたいものです。
今回の本題と話がそれてしまったので、戻しましょう。
探偵の本分というところです。
よくある話なのが、探偵と刑事では何が違うのか、ということ。
探偵は一般企業ですから依頼者から依頼を受けてお金をもらいます。刑事は国家公務員ですから、依頼されて動くわけではありませんし、誰かから直接お金をもらうということもしません。日本に住んでいる人が支払っている税金から支給されています。
探偵と刑事の違いにある「依頼」というのがミソなのですが、「依頼」ってどういう時にするものでしょうか?
例えば殺人事件でAさんが殺されたとします。Aさんの家族は、すぐさま「依頼」をして事件を解決してもらおうとするでしょうか?
そんなことしませんね。「依頼」をしなくても、刑事が動き出して勝手に解決してくれることを知っているからです。もちろん、刑事が出した結果が気に入らなければ、刑事に対して再調査の依頼をするかもしれませんし、探偵に再調査の依頼をするかもしれませんが、初めからは「依頼」なんてしません。
ですが、家出人やストーカー被害などの場合はどうでしょう。
家族や当人たちは何とかしてほしいと思い「依頼」をしに来ます。何もしなければ、誰も何もしてくれないからです。
こういう時に刑事に「依頼」をされる方もいますが、刑事は基本的に事件とのかかわりがなければ捜査はしません。ですが、探偵に「依頼」した場合はどうでしょう?
事件性があってもなくても関係なく、依頼人からの正式な「依頼」であれば、ちゃんと動きます。とくに人探しの依頼は、探偵社に持ち込まれる依頼で2番目に多いものです。そのため、自然とノウハウも探偵社にはあり、たとえ刑事が事件性があるから捜査をしようとしても、探偵の方が先に見つけられるということもあるでしょう。
ただし、「人探し」には裏があり、犯罪を犯すために人探しの依頼をしてくる依頼人もいるので、探偵はその辺りも見分けるノウハウがあります。
ストーカー被害の場合も同じです。刑事は、実際に大ごとにならない限り動いたりはしませんが、探偵は依頼されれば、誰がストーカーをしているのかの割り出しも行ってくれます。
また、探偵の仕事で一番多い浮気・離婚問題。これも、依頼されれば探偵は仕事として受けます。
つまり、殺人などの刑事事件と呼ばれるものは刑事が初動調査を行いますが、離婚、家出人、ストーカーなどの民事事件と呼ばれるものは探偵が初動調査を行うことが多いというすみわけができています。
人の裏側を調べる職業がもう一つありますね。それは、刑事事件にも民事事件にも介入してくる弁護士です。ですが、弁護士は刑事事件も民事事件も初動調査は基本的には行いません。彼らは、相手の言い分が正しいかどうかをジャッジする役割を担っているためです。もちろん答えを出すのは弁護士ではなく裁判長ですが、常に出された結論に対して反論して、真実がどうだったのかを改めて確認させるという位置にあります。
こうやって考えていくと、探偵、刑事、弁護士の立ち位置がわかってきますね。
ところで探偵が受けられない「依頼」とは、何だと思いますか?
探偵にもある役割があります。それは「真実を明確につかんで、依頼人に報告する」ということです。そのため、探偵コラムでも何度も出てきていますが、別れさせ屋や裏工作員まがいのことをしている探偵は違法ということになります。
また道徳的なものですが、差別に関する依頼も受けていません。当然のことなのですが、「探偵」という特殊な職業と思われているために、ここならそういう依頼でも受けてくれるだろうと勝手に思われていることがあります。
その認識が変えられていないのも、探偵がまだまだ一般化されていないからなのかもしれません。
また、もう一つ注意しなければいけないのは、探偵は一般企業と同じだということです。
刑事や弁護士は特別な権限を国から与えられているため、普通の人が行えば違法となるようなこともできます。ですが、探偵は一般企業と同じなので、普通の人が行える範囲内でしか調査はできません。
それでも結果を出せるようなノウハウや顔の広さというのがあるため、依頼人が満足できるような報告書を作ることができるのです。
他の職業でも同じだと思いますが、何も知らない人が突然明日からプログラマーになろうと思ってもできないのと同じように、何も知らない人が突然明日から探偵になることもできません。
よくわからない業界だからこそ、誰でもなれるのかもと思ってしまう人がいるのですが、探偵には探偵のノウハウがあります。素人の方が、探偵のまねごとをして事件になってしまったこともありますので、ご注意ください。