2022-08-06
第175回:《探偵》物語の中の探偵と現実の探偵に隔たりがあるのはなぜなのか
フィクションとノンフィクションでは隔たりがあるのは当然です。
現実をそのまま物語にしても面白くなかったり、現実を知らない人が物語を書いたりしているため、そこに齟齬ができます。
例えば、警察署を舞台にした物語があったとします。それを、現役の警官が読んだとしたら、おそらく本当はこうじゃない!と心の中で思っていることでしょう。
他にも弁護士ものも物語としてはよくありますが、これも現役の弁護士が読むと実際はこうじゃない!と心の中で思っているはずです。
それでも、あっている部分があるものもありますし、微妙に現実味がある、というところもあります。
それは物語を書いた人が、警察や弁護士が身近にいたり、実際に話を聞いたりしているからでしょう。それでも、書き手本人が警官だったり弁護士だったりという経歴がなければ、本当のところは書けません。
中には、元警官が書いた警察署の物語や、元弁護士が書いた弁護士の物語もあります。けれど、「元警官」と言っても、その人がどの部署で、どの階級まで行ってから辞めたのかによって、見えている世界は違います。
例えば、地方の交番勤務しかしていなかった巡査どまりの元警官であれば、地方の交番勤務の話は書けても、本庁のトップの抗争などは想像でしか書けないからです。全くの未経験者に比べるとかけることがあったとしても、どこを舞台にするのかで素人と同じレベルと言えます。
これは弁護士であっても同じです。弁護士も何の弁護士なのかによって仕事の仕方も、関わっている人も違うため、知っていることと知らないことが分かれます。
これは他の職業に関しても同じです。
電車、飛行機、バス、タクシー運転手などが物語の主人公として登場することもありますが、その裏側については、そこまで表現しているものはありません。運転をしている姿であれば、その乗り物に乗っていれば見ることができるので、実際にその職業に携わっていなくても書けますが、どういう1日を過ごしていて、どういう勉強をして、どういう試験を受けて、どういう研修を受けて、今現在の地位にいるのかということも詳しく物語の中で展開されているものが少ないのも、物語にすると面白くないから、という理由ではなく、知らないから書けないというだけです。
ですが探偵だけは少し違います。
探偵の物語は、元探偵ではない限り、正確なものを書くことができません。
先ほど例に出した運転手や警官、弁護士というのは、接する機会があったり、接したことのある人に、どんな雰囲気だった? と言う風に聞くことができるので、実情を正確に把握することができなかったとしても、雰囲気ぐらいは知ることができます。
ですが、探偵は自分が探偵になるか、依頼人になるかのどちらかにならない限り、雰囲気を知ることもできない存在です。
探偵事務所は一般の方からの依頼も受けているので、探偵の雰囲気を知っている人も一定数いるのですが、探偵という特殊な環境から、そのことを外には漏らしません。探偵に相談をする人というのは、自分が探偵に相談をしたということを基本的には、誰にも知られたくないと思っているからです。
探偵側が何も言わないのではなく、依頼人側が外に漏らさないために、探偵という職業は探偵が発信をしない限り、外にいる人にとっては謎に包まれた存在になっています。
だから、物語の中の「探偵」には嘘が多いというわけです。
そして、物語の中の探偵が、警察のように事件を解くものが多いというのは、外国の探偵の影響が強いからでしょう。
「探偵」と言っても、日本の探偵と海外の探偵では行っていることが違います。外国の中には、探偵が実際に刑事事件を調査することもあります。ですが、日本ではほとんどあり得ないことです。
また、海外小説の中に出てくる「探偵」は有名な探偵が多く、その影響を受けている日本人作家が多いのも特徴です。有名なものと言えば、ホームズ、ポワロ、マーブルおばさんなどでしょうか。おそらく探偵に興味がない人でも、どこかで聞いたことのある言葉だと思います。そういった探偵を前提にして探偵を書いているため、なおさら現実の探偵との乖離が激しくなっているのでしょう。
だから探偵の場合は、他の職業に比べると、物語の中で嘘が多いというのが特徴です。
ただここ数十年の間に、探偵もメディアに出ることが増えてきたため、現実の探偵が認知されるようになってはきましたが、メディア用に誇張している部分もあるため本質とはやや離れています。
とはいえ、情報があまり外に漏れてこない「探偵」という職業を選ぶ人というのは、やはり一般的な職業に就く人に比べると、個性が強いこともあります。中には一般のサラリーマンのようなタイプの人もいますが、どことなく影を背負っている人もいます。
探偵の職業についていたとしても、それを外に伝えない人も多く、「調査業」と言っている人も多いのが特徴です。警官が「公務員」と言っているのと同じですね。
ただそんな探偵業界ですが、実際に探偵になっている人は年々増えています。探偵の情報がそれほど外に出ていないにもかかわらず、探偵を志願するため、現実とのギャップに辞職率も高いのですが、全員が辞めるわけではありません。
ただ新しい人が次々と探偵になっていくということは、探偵業界は昔の空気をずっとまとっているわけではなく、新しい風が常に吹いている業界ということです。
一般企業でも、新入社員を多くとっている会社は新陳代謝がよく、成功する例が数多くあります。
探偵も古臭いしきたりだけではなく、新しい考えを持った若い人たちも、参入しているので業界自体が変わってきてはいます。
探偵の情報が外に漏れないため、昭和の雰囲気がありそうと思っている方もいるかもしれませんが、意外とIT化が進んでいる探偵も多くいますので、どんなことでも相談をしてみると、依頼として受けてくれることもあります。
こんなこと探偵に相談することではないのかもしれない。そう思ったとしても、他に相談をする場所がないのであれば、ぜひ探偵に相談をしてみて下さい。イメージとは違った探偵が、あなたの悩みを解決してくれるはずですよ。